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コミュニケーション・バイブル

牛窪恵

2012.02.29

蘊蓄(うんちく)の時代からフレーズの時代へ

最初の著書『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(日本経済新聞出版社、2004年)の「おひとりさま」が2005年新語・流行語大賞に最終ノミネートされた。次の年には「独身王子」を生みだし、それは『結婚できない男』という阿部寛さん主演のドラマの原作の一つとされた。その頃は自覚していなかったけれど、その後インターネットが普及し、「検索」と「フレーズ」の文化が出てきて、あるタイプの人達や、現象をフレーズでカテゴライズする傾向が顕著になる。企業からも、キャッチフレーズを伴うマーケティングの依頼が増えた。

テレビでは情報番組が増え、右肩に特集名を出す時の、強いインパクトのある言葉が求められる。コメントにしても、アドリブが優位の番組作り。テレビ出演をして感じるのは、「テレビでのコミュニケーションは瞬間芸だけに、単語のメッセージ性が強い」ということ。最近はツイッターやフェイスブックでもキーワードが立っている言葉に人々は反応する。蘊蓄を並べた言葉はもはや読まれない。私達バブル世代は、特に男性は蘊蓄が好きで、このソファを作ったル・コルビジェという人の半生がどうのこうのと語ることが、商品を売る上でも大事だったけれど、現代はそうではない。要するに、今は圧倒的に情報量が多いので、ちょっと聞いたフレーズで「面白そう」とか、「なんだそれ」と思うと、そこから深く入って行く。逆に、その引っ掛かりがないと、どんどんスルーして行く。今の10代〜20代の文化は完全に携帯電話の文化で、彼らはものすごい情報量の中から瞬時に判断し、コミュニケーションすることを、子供の時からやっている。

自分では、テレビでも日常生活でも、話す時は「結論」から入り、物事をできるだけ簡潔に話すことを心掛けている。そして内容を「表情」に込めて話す。特にテレビでは、話の内容を「表情」で理解されることが多いので、堅い内容であれば、笑顔であっても、できるだけ締まった笑顔をするように気をつけている。

けれど、「本当のことを一番伝えられるのは直接お会いしてお話すること」。講演然り、またはじっくり話せるラジオもいい。

フレーズ・マーケティング

フレーズは、グループインタビューや対面取材を繰り返して、試行錯誤の末に出てくる。単なる短い言葉なので、誤解して意味を取られることも当然ある。けれどそのリスクがあったとしても、カテゴライズする重要性は感じている。

グループインタビューは通常4人〜6人が円状のテーブルに座る。大学生以上、70代も含めて全ての年代に対して行う。そこでモデレーターと呼ばれる司会者が話をまわして行く。グループインタビューでは「誘導」と呼ばれる質問はご法度で、できるだけスムースに、なるべく多くの本音を聞き出し、そこからフレーズを導き出すのが重要となる。その4人〜6人のグループで、Aさん、Bさんの性格や何を話したい人なのかを徐々に把握し、会話が盛り上がるように当てる順番に気を使うなど、モデレーターのスキルに掛かってくる。

グループインタビューより、本音を引き出しやすいのが、1対1の「デプスインタビュー」で、インタビュアーは相手が何を言いたいのかをじっくり聞き、まず共感し、場合によっては自分の体験なども含めて自らをさらけ出すことが、相手との信頼関係を築くために必要となる。

「何が欲しい」ということがない時代に、人が何を考えているのか、心の奥に入っていくインタビューは簡単ではないが、人生経験も含めた「経験」と、相手の立場などを思いやれる「人間性」が鍵になると思う。

女性が働くということ

女性が、特に働く場では、まだまだ自分達の強みを発揮できていないジレンマを強く感じている。

男性と肩を並べて頑張ろうと力んでしまったり、出産した同僚が「子どもが熱を出したから」と早退する時、独身の女性達が「これだから主婦は」という目で見てしまったり、逆に家庭のある女性達が「独身の人達には分からない」という思いを強くしたり。こういった問題こそ、女性達自身がお互いの立場や悩みを明かして、話合わないと解決できない問題。男性にはおそらく分からない。

だから講演などでは、「なぜ40代にバリキャリ(バリバリのキャリアウーマン)志向が多く、アラサー(アラウンド・サーティー、30歳前後)〜20代女性は「早く結婚、出産したい」と考えるのか」といった世代間ギャップについて話す。

1986年の男女雇用機会均等法の施行以来、女性が一生働ける職場が出てきて、どんどん女性達が社会進出し、高学歴になった。逆に男性が不況で自信を失って、男女とも未婚が爆発的に増えた。30代以上で未婚あるいは子なしの女性、が「負け犬」と呼ばれた。言葉が一人歩きをして、「仕事ができたって負け犬だろう」という言い方をされる人も多くいた。それに対して、女性が一人で快適に外食をしたり、旅をしたりすることを応援する「おひとりさま向上委員会」の故・岩下久美子さんが推奨した「おひとりさま」という言葉を、前向きなメッセージとして発信しようと思った。それが大きな起点となる最初の著書に繋がった。大事なのは女性が経済力を持って、自立して生きられる世の中にすること。まだ結婚をしていなくてバリバリ働いている人達は仕事に対してプライドを持っているし、過去の自分を否定されたくない。一方で、不況しか知らない若い人達は、仕事に希望が持てていず、結婚、出産をしないと親を喜ばせられない、そういう思いが強い。そこを理解した上でコミュニケーションをしないと、すれ違って、お互いに仕事がし辛いし、ハッピーではない。せっかく女性達は良い方に変わっていこうとして、変わってきたのだから、色々な生き方や働き方を認め合い、お互いに応援していきましょう、そう呼びかけるようにしている。

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好きな言葉は「今を生きる」。今はどんどん変わっていき、明日はどうなるかわからない。全ての瞬間を大事にしたい。先輩方の生き方を語り、時代を的確に描写する、牛窪さんの言葉には強い使命感が滲み、フレーズは心に残る。

取材・写真 篠田英美

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