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コミュニケーション・バイブル

牛窪万里子

2012.03.14

縁の繋げ方

「人との出会いで肝心なのはコミュニケーションだと思っています」。人は話してみないと分からない。話してみると意外な共通点がある。コミュニケーションによって色々なことが繋がり、ご縁ができる。必ずプラスになっていく。

コミュニケーションが苦手な人は、話すことがない、と言う。会話が途中で止まってしまう。相手の話にどう返していいか分からない。そんな時は、「相手に合わせる」。喋り方や声のトーンを合わせると、相手は心地良いと感じる。価値観を合わせてもらえた、つまり、自分を認めてもらえたと感じることで、信頼関係が生まれる。コミュニケーションは、相手と時間や空気を共有すること。そのために価値観を合わせることがポイントになる。

今はフェイスブックやツイッターで、一人一人が情報を発信できる場がたくさんある。ネタの入った引き出しを多く持ち、それを会話の中に組み入れることができる。

必要とされるコミュニケーション能力

日本経済団体連合会が行っている世論調査で発表された「新卒採用時に重視する要素」として、「主体性」「協調性」「チャレンジ精神」「誠実性」「責任感」などの中で、8年連続第一位が「コミュニケーション能力」。この結果を見ても、企業において何よりも優先されるべきは、「コミュニケーション能力」だということが分かる。実際、私が教える話し方講座の生徒も、以前は女性が多かったが、最近は生徒の半数が男性になる位、男性が増えてきた。コミュニケーションに対する意識が高まっているのを感じる。講座に通う理由は、コミュニケーションの苦手意識や、自分のコミュニケーションの仕方を客観的に見てほしいというスキルアップのため、具体的な例では、「職場で上司に話し方を注意されたから」という声を多く聞く。コミュニケーション能力が注目されている要因の一つには、グローバル化に伴い、多様化に対応できる能力が必要になってきたこと、もう一つには、就職難を背景に、面接での自己PR力の大切さから、話し方や、相手が求めるコミュニケーション力を身につける必要性に迫られていることがあると思う。

インタビューの妙

プロとして何千というインタビューをしてきた。印象に残っているインタビューがある。「自分の将来の夢」を絵で表現するという、中学校の美術の授業の取材で、登校拒否になっていた女子生徒が、なぜ学校へ行くのが嫌になったかを、描いた絵を通してインタビューした。描いた絵はゴッホの「ひまわり」で、その傍らに佇む少女はひまわりには目を向けず、横を向いている様子が描かれている。真意を訊ねると、「孤独感」だった。絵に描かれた言葉にできない心理状況を、インタビューを通して敢えて言葉で、相手から引き出さなければならないという、インタビューの難しさや奥深さを実感したことだった。

インタビューとは「相手の真意を引きだすこと」、と考える。相手の無意識の部分を掘り起こし、意識化させること。話す時に言葉になって出てくる情報は、ほんの一部に過ぎない。その省略された言葉を「問い」によって引き出すことを実践してきた。大事なのは言葉の投げ掛け方。どんな言葉で問うかによって、答えが変わってくる。それは特別なことではなく、日常的に誰もが実践していること。テクニックより、むしろ観察力によって、相手が話しやすい言葉で問い掛けることが大切。

意識が人を変える

約20年前、メールも携帯電話もパワーポイントもない時代。機械に頼らない分、喋る言葉が大事な時代だった。電話の受け答え、会議での話し方、連絡のやり取り、それらのコミュニケーションができないと仕事にならない。会社員の傍ら、コミュニケーションの技術を磨くべく、アナウンス学校へ通い始めた。学ぶうちに面白くなり、一流企業の会社員から一念発起してアナウンサーとなった。アナウンサーと言っても、ディレクターとして企画を出して、取材に行って、持ち帰ったVTRを編集し、ナレーションをつけ、放送を全部手作りする現場。周りの仕事を把握して、漸くアナウンサーとしての自分の役割が見える。しかし勿論、最初から上手くいった訳ではない。「今まで自分が正しいと思ってやってきたことを全部崩されました」。自分の殻を破れないところがあった。カメラの前で自分をさらけ出せない。カメラを通してちっとも感情が伝わらない。そんな自分を周りからきつく言われたりもした。そこでしゅんとなったらおしまいだったが、「自分は自分らしく表現しているつもりだし、これ以上要求されても無理。自由にやろう」と開き直ると何かが吹っ切れて、初めて素になれた。すると自然に笑え、自然に伝えられるようになり、楽しめるようになった。「良くなったね」と、周りの評価も変わった。あまりの周りの変化に、自分が驚いた程だった。放送での経験はコミュニケーション力を磨く大きな場になった。放映は一瞬だが、準備に掛ける意気込みは大きい。スタッフ全員が「良い番組にしたい」と同じ思いで臨む時、スタッフ同士の密なコミュニケーションと連携が必要となる。時にはぶつかり合いながら、皆の意見を尊重しつつ、本番は一つになって取り組む。相手を尊重し、価値観を共有することが、コミュニケーションの上で大切だと知った。

コミュニケーションは気持ち次第。意識を変えるだけで人は変わる。表情には自分の気持ちが表れる。まずは笑顔になって、微笑み掛けること。すると相手も笑顔になる。待っているだけでなく自分がリード権を持って、気持ちを楽にして仕掛けていこう。

自分自身とのコミュニケーションも大切に

「自分自身とのコミュニケーションによって人生は良くも悪くもなる。前向きな質問をいつも自分に投げ掛けることが大切。どんな年になっても、チャレンジする気持ちを持ち続けることが、人生を楽しむ極意となります」と話す牛窪さん。鈴の音を鳴らすような心地よいトーンの声。柔らかな微笑み。またお会いしたいと思わせる、さすがプロの技につい惹きこまれた時間だった。

取材・写真 篠田英美

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